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上兼栗 つむぎ

一貫性はもろ刃の刃

 昭和の時代の話ですが、旧ソ連の教育家で有名なニキーチン夫妻をご存知ですか。

 共働きをしながら夫婦で協力して、家庭で7人の子どもを育てた経験から、独自の教育法を世界に向けて紹介した方です。お母さんはレーナさん、お父さんはボリスさんとおっしゃいます。

 その教育法がどの様なものかは著書をあたっていただくとして、私が今も忘れらないシーンを紹介しましょう。

 それはお母さんのレーナさんが語っている場面で、小さい、多分1,2歳の赤ちゃんが、食事中かんしゃくをおこしてスプーンを放り投げたのです。そしてそのスプーンをとってくれろと泣きわめいていました。

 お父さんのボリスさんは毅然とした態度で、自分でスプーンを拾うまでは放っておきなさいと言う。大人がその時々の気分で子どもに接すると、後々ずっと小言を言い続ける羽目になる、といったところでしょうか。

 同居のおばあちゃんはとにかく赤ちゃんを泣かせておくことに反対、何でも望みを叶えてあげたい祖母心です。

 みんながやいやい言い合うなかで、お母さんのレーナさんは葛藤しています。夫とは、二人三脚で子育てしてきて、彼の教育哲学には信を置いているレーナさん、ご自身も教育者で在られます。しかし、母親としての心の底からは「今は違う」という思いが沸き上がってきます。

 涙と鼻水でぐしょぐしょになった赤ちゃんが泣きじゃっくりながらスプーンを拾って、ママの下に這い寄ったとき、レーナさんは抑えきれずに共に号泣してしまいました。

 細かい描写は違っているかもわかりませんが、若い母親だった私はそのシーンを読んで大いに泣いたものでした。

 後にレーナさんは、今ならあの時ぼうやに必要だったものが何だったかがはっきり分かると言っています。それは「同情」だと。


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